「社長のポケットマネー」は危険信号!公私混同が招く資金繰り悪化と税務リスク

「会社のカネは、社長である俺のカネ」。

もしあなたが少しでもそう考え、会社の口座から個人的な支出をしているなら、非常に危険なサインです。

佐々木 真帆

こんにちは。元銀行員で、現在は中小企業の財務コンサルタントをしている佐々木真帆です。

銀行員時代、私は「社長のポケットマネー(役員貸付金)」という、たった一つの理由で、将来性ある企業の融資を断らなければならない場面を何度も見てきました。その度に、社長の悔しそうな顔が今も忘れられません。

この記事を最後まで読めば、あなたは金融機関や税務署から「公私混同」と見なされる致命的なリスクを完全に理解し、銀行が「ぜひ融資したい」と評価する健全な財務体質を手に入れるための具体的な方法が分かります。

【この記事の結論】社長のポケットマネー(役員貸付金)は絶対にNG!

社長が会社の資金を個人的に利用する「ポケットマネー化」は、会計上「役員貸付金」として扱われ、会社を深刻な危機に陥れる3つの重大なリスクがあります。

  • リスク①:金融機関からの信用失墜
    銀行は「役員貸付金」がある会社を「公私混同で資金管理が杜撰」と判断し、融資審査で極めて不利になります。将来性があっても融資を断られる大きな原因です。
  • リスク②:税務調査での追徴課税
    税務署から「実質的な役員賞与」とみなされると、会社は法人税、社長個人は所得税の「ダブルパンチ」で追徴課税される恐れがあります。
  • リスク③:深刻な資金繰りの悪化
    会社の運転資金が社外に流出している状態のため、利益が出ていても倒産する「黒字倒産」の直接的な引き金になります。

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目次

「社長のポケットマネー」の正体とは?会計上の「役員貸付金」を理解する

まず、この問題の根本を理解することが重要です。

そもそも「役員貸付金」とは何か?

大前提として、会社と社長は法律上「別人格」です。
たとえあなたが100%株主の社長であっても、会社のお金はあなたの個人的なものではありません。

社長が会社の資金を、事業目的以外(個人的な目的)で引き出した際に、会計上「会社が社長にお金を貸した」という扱いで処理されます。
この時に使われる勘定科目が「役員貸付金」です。

佐々木 真帆

これは、貸借対照表(B/S)という決算書の上では「資産」として計上されますが、実態は会社からキャッシュが社外に流出している、非常に不健全な資産です。

なぜ「役員貸付金」が発生してしまうのか?よくある原因

「うちは大丈夫」と思っている社長ほど、無意識のうちに役員貸付金を発生させているケースが少なくありません。
私が銀行員時代に見てきた、よくある原因は以下の通りです。

  • 生活費の補填: 役員報酬だけでは足りず、会社の口座から引き出してしまう。
  • 領収書のない経費の仮払い: 出張費などを一旦会社の現金で支払ったものの、領収書を紛失し精算できないまま放置されている。
  • 個人的な高額商品の購入: 自宅の家具や高級車などを会社の経費で支払ってしまう。
  • 家族への送金: 事業とは無関係な、ご家族の学費や生活費を会社の口座から振り込んでしまう。

一つでも心当たりがあれば、あなたの会社にも危険信号が灯っているかもしれません。

【警告】公私混同が招く3つの深刻なリスク

役員貸付金を放置すると、具体的にどのような恐ろしい事態を招くのでしょうか。
ここでは、絶対に知っておくべき3つの深刻なリスクを解説します。

役員貸付金が引き起こす3つの危機

リスク1:金融機関からの信用失墜と融資審査への悪影響

金融機関は、役員貸付金を極端に嫌います。
はっきり言って、決算書にこの勘定科目があるだけで、融資のハードルは一気に跳ね上がります。
なぜなら、銀行は「会社の資金管理が杜撰な経営者」にお金を貸したいとは決して思わないからです。
この点については、次の章で私の実体験を交えて詳しくお話しします。

リスク2:税務調査で指摘され、追徴課税を受ける

税務署も役員貸付金を厳しくチェックしています。
もし、この貸付金が「実質的には社長への給与(賞与)だ」と判断された場合、大変なことになります。

会社側では経費として認められず法人税が、社長個人には給与所得として所得税が課されるという「ダブルパンチ」の追徴課税が発生するのです。

リスク3:会社の資金繰りを確実に悪化させる

役員貸付金は、会計上は「資産」ですが、会社にお金を生み出すことは一切ありません。
むしろ、会社から運転資金が流出している状態です。

この状態が続くと、仕入代金や給与の支払いに必要なお金が不足し、利益が出ているにもかかわらず倒産してしまう「黒字倒産」のリスクを高める、直接的な原因となります。

【元銀行員が解説】金融機関は「社長のポケットマネー」をこう見ている

ここからは、この記事の核心部分です。
なぜ私たち銀行員が、役員貸付金を「最重要危険シグナル」と見なすのか。そのリアルな視点をお伝えします。

なぜ銀行は役員貸付金を「最重要危険シグナル」と見なすのか

理由はシンプルです。
私たちは役員貸付金がある会社を、こう見ています。

「この経営者は、会社のお金と自分のお金の区別がついていない。つまり、会社の資金管理が極めて杜撰だ」
「もし融資を実行しても、そのお金が本当に事業に使われる保証がない。社長の個人的な支払いに流用されるのではないか?」

これが銀行員の本音です。
事業計画がどれだけ立派でも、経営者に「公私混同」という基本的なモラルの欠如が見られれば、その事業計画自体の信頼性も揺らぎます。
私たちは、お金を貸すプロとして、そのリスクを看過することは絶対にできないのです。

融資審査の現場:決算書のどこを見て「NG」と判断するのか

融資の稟議書を作成する際、私たちは必ず決算書の貸借対照表(B/S)をチェックします。
具体的に言うと、資産の部にある「貸付金」や「短期貸付金」といった勘定科目の金額と、その滞留期間です。

明確な基準は金融機関によって異なりますが、私の経験上、「売上高の10%を超える役員貸付金」「2年以上変動がない(=返済されていない)役員貸付金」があると、その時点で稟議を通すのは極めて困難になります。
上司からは「この会社、大丈夫か?」と必ず厳しい指摘が入りました。

私が見た事例:役員貸付金が原因で融資を断られた企業の末路

忘れられない案件があります。
地方で独自の技術を持つ、ある製造業のA社です。
業績は順調で、新たな設備投資のための融資相談でした。

しかし、決算書を見ると多額の役員貸付金が…。
社長に尋ねると、数年前に購入した高級外車の代金だと言います。
「すぐに返すつもりだったんだけどね」と笑っていましたが、その貸付金が原因で、私たちは融資をお断りせざるを得ませんでした。

結果、A社は設備投資のタイミングを逃し、競合他社に大きく水をあけられてしまいました。
あの時の社長の悔しそうな表情は、今でも私の脳裏に焼き付いています。
事業の将来性という「希望」が、社長自身の公私混同によって断たれてしまった瞬間でした。

税務調査で必ず狙われる「役員貸付金」の税務リスク

金融機関だけでなく、税務署も役員貸付金に厳しい目を光らせています。

「返済するつもりのない貸付」は役員賞与とみなされる

以下のようなケースでは、税務署から「これは貸付ではなく、実質的な給与(役員賞与)だ」と認定されるリスクが非常に高くなります。

  • 金銭消費貸借契約書がない
  • 返済計画がなく、長期間返済された実績がない
  • 利息を支払っていない

役員賞与と認定されると、会社はその金額を損金(経費)にできず、法人税の負担が増えます。
さらに、社長個人も給与所得として所得税・住民税の対象となり、まさに泣きっ面に蜂の状態です。

利息を取らないと「認定利息」として課税される

たとえ役員賞与と認定されなくても、会社が社長から適正な利息を受け取っていない場合、税務署は「利息を受け取ったもの」とみなして、その利息分を会社の収益として計上します。
これを「認定利息」と言い、この分だけ法人税が課されることになります。

ちなみに、現在の適正利率は以下の通りです。

貸付を行った期間利率
令和4年1月1日~令和7年12月31日年0.9%

※会社が銀行等から借り入れて貸し付けた場合は、その借入金の利率となります。

税務調査官はここを見る!指摘を避けるための最低限の対策

税務調査で無用な指摘を避けるためには、貸付の実態を客観的に証明する必要があります。

  • 金銭消費貸借契約書を作成する: 貸付金額、利率、返済期間、返済方法を明記します。
  • 返済計画書を作成し、その通りに履行する: 毎月きちんと返済している証拠(通帳の記録など)を残しましょう。
  • 取締役会議事録を作成する: 役員への貸付が、会社の正式な手続きを経て行われたことを証明します。

「社長のポケットマネー」状態から脱却する4つのステップ

もし、あなたの会社に役員貸付金があるなら、今すぐ解消に向けて行動を起こしましょう。
具体的な4つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状把握 – まずは自社の貸借対照表を確認する

何事も、まずは現状を正確に知ることからです。
自社の貸借対照表(バランスシート)を取り出し、「資産の部」に「役員貸付金」「短期貸付金」「貸付金」といった勘定科目がないか確認してください。
そして、その金額がいくらになっているのかを正確に把握しましょう。

ステップ2:返済計画の策定 – 役員報酬や退職金との相殺

最も現実的で一般的な解消方法です。

  • 役員報酬からの天引き: 毎月の役員報酬から一定額を天引きして返済に充てます。着実に残高を減らすことができます。
  • 役員退職金との相殺: 将来、社長が退職する際に支給される退職金と相殺する方法です。ただし、これは最終手段であり、それまで貸付金が残り続けるという問題があります。

ステップ3:個人資産の活用 – 資産売却による返済

もし社長個人に資産があれば、それを活用することも有効です。
例えば、社長個人が所有する不動産や有価証券などを会社に売却し、その売却代金をもって貸付金を返済します。

ただし、この場合は売却価格が適正であることが重要です。
不当に高い価格で売却すると、税務署から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。

ステップ4:再発防止 – 会社と個人の経理を徹底的に分離する

最も重要なのが、二度と同じ過ちを繰り返さないための仕組み作りです。

【これだけは押さえたい!再発防止のポイント】

  1. 法人用クレジットカードを徹底活用する: 個人のカードで立て替えるのをやめ、事業用の支出はすべて法人カードに統一します。
  2. 経費精算ルールを厳格化する: 「領収書がない経費は認めない」「仮払いは〇日以内に精算する」といった明確なルールを作り、必ず守ります。
  3. 社長個人の生活費と役員報酬のバランスを見直す: そもそも役員報酬が生活実態に見合っていない場合は、株主総会を経て適正な金額に見直すことも検討しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q: 社長は会社のお金を自由に使えないのですか?

A: はい、使えません。会社と社長は法律上別人格であり、会社のお金はあくまで事業目的のために使うべきものです。私的に利用した場合は「役員貸付金」となり、本記事で解説したような様々なリスクが生じます。

Q: 少額でも役員貸付金があると問題になりますか?

A: 金額の大小に関わらず、役員貸付金の存在自体が「公私混同の証拠」と見なされ、金融機関や税務署からの心証を悪くします。少額のうちに解消し、二度と発生させない仕組みを作ることが重要です。

Q: 役員貸付金の利息はいくらに設定すれば良いですか?

A: 国税庁が定める利率以上で設定する必要があります。例えば令和4年中に貸し付けたものであれば年0.9%です。ただし、会社が銀行などから借り入れて貸し付けた場合は、その借入利率となります。詳しくは税理士などの専門家にご相談ください。

Q: 役員貸付金を返済せずに放置するとどうなりますか?

A: 長期間放置すると、税務調査で役員賞与と認定され追徴課税を受けたり、金融機関からの信用を完全に失い融資が受けられなくなったりするリスクが非常に高まります。最悪の場合、会社の存続に関わる問題に発展します。

Q: 役員貸付金を債権放棄(チャラにする)ことはできますか?

A: 会社が債権放棄をすることは可能ですが、その放棄額は役員への賞与とみなされ、役員個人には所得税が、会社側では損金不算入となり法人税が課税されます。税負担が非常に重くなるため、通常は推奨されない方法です。

まとめ

本記事では、「社長のポケットマネー」という安易な考えが、いかに会社の未来を危険に晒すかをお伝えしてきました。

要点を振り返ると、

1. 金融機関からの信用を失い、資金調達の道を閉ざす
2. 税務調査で思わぬ追徴課税を受ける
3. 会社の資金繰りを悪化させ、経営を不安定にする

という3つの深刻なリスクがあります。

佐々木 真帆

特に元銀行員の視点から強調したいのは、役員貸付金があるという事実だけで、あなたの会社の評価は著しく下がるということです。

「資金繰りは会社の心臓部」です。

まずは自社の決算書を確認し、もし役員貸付金があれば、今日から解消に着手してください。
そして、二度と公私混同が起きない仕組みを作ることが、あなたの会社を潰さず、成長軌道に乗せるための絶対条件です。

もし一人で解決が難しい、何から手をつければいいか分からないと感じたら、決して一人で抱え込まないでください。
手遅れになる前に、私のような資金繰りの専門家にご相談ください。
あなたの会社の未来を守るお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。

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この記事を書いた人

佐々木真帆は、資金繰りコンサルタントとして活躍する金融のプロフェッショナルである。大手銀行での融資審査経験から独立コンサルタントとしての現在まで、一貫して「企業の生命線である資金繰り」に焦点を当て、その知見を惜しみなく共有している。

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