適正な在庫管理が資金繰りを救う!在庫回転期間の計算方法と改善策

「売上は順調なのに、なぜかいつも資金繰りが苦しい…」

多くの中小企業経営者が抱えるこの悩み、実はその原因が「在庫」にあるかもしれません。

こんにちは、資金繰りコンサルタントの佐々木真帆です。私は銀行員時代、多くの企業が過剰な在庫によって資金繰りを悪化させ、融資の機会を逃す場面を目の当たりにしてきました。

佐々木 真帆

在庫は会計上「資産」ですが、現金化されなければ会社の心臓部であるキャッシュフローを圧迫する「罪庫」にもなり得ます。

この記事では、あなたの会社の健康状態を測る「在庫回転期間」の計算方法から、明日から実践できる具体的な改善策、そして元銀行員の視点から見た「融資に強い在庫管理」まで、徹底的に解説します。

【この記事の結論】在庫回転期間の計算と改善のポイント

項目結論・要点
何がわかる指標?在庫が「何日で現金化されるか」を示す、会社の資金繰りの健康診断指標です。
計算方法は?在庫回転期間(日数)= 棚卸資産 ÷(売上原価 ÷ 365) で計算します。
業界別の目安は?小売業:27.4日、卸売業:36.5日、製造業:114.8日が中央値の目安です。
主な改善策は?「需要予測の精度向上」「ABC分析による在庫の重点管理」が改善の第一歩です。

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目次

なぜ在庫が多いと危険なのか?元銀行員が語る「黒字倒産」のワナ

在庫は「現金が形を変えたもの」という現実

利益は出ているのに、支払いに窮する。そんな経験はありませんか?

企業のキャッシュフローは、「現金→在庫→売掛金→現金」というサイクルで回っています。商品や材料を仕入れるために現金が在庫に変わり、それが売れて売掛金になり、最終的に回収されて現金に戻る。このサイクルが滞りなく回ることが、健全な経営の証です。

しかし、在庫が過剰になると、現金化されるまでの時間が長くなり、キャッシュフローが著しく悪化します。

私が銀行員時代に担当したある製造業の会社は、売上は右肩上がりで利益も出ていましたが、常に資金繰りに追われていました。原因は、過剰な製品在庫。作った分だけ売れるという思い込みから、需要予測を大きく超える製品を作り続け、倉庫は在庫で溢れかえっていたのです。結果、手元の現金が枯渇し、黒字にもかかわらず倒産の危機に瀕しました。

銀行はあなたの「在庫の中身」を見ている

銀行の融資審査では、決算書の棚卸資産の額だけでなく、その内訳や回転期間を厳しくチェックします。不良在庫や長期滞留在庫は、資産価値ゼロと見なされることもあります。

これは、私が銀行員時代に叩き込まれた鉄則です。決算書上の数字が同じでも、「常に新しい商品が回転している在庫」と「何年も売れ残っている不良在庫」では、その価値は天と地ほども違います。銀行は、在庫がどれだけ早く現金化されるか、つまり「換金性」を重視します。回転の遅い在庫は、それだけ現金化が難しいと判断され、融資審査において大きなマイナス評価となるのです。

「決算書は黒字なのに…」私が目撃した黒字倒産のリアル

私が担当していた、あるアパレル会社の話です。その会社は、毎年順調に売上を伸ばし、決算書上は立派な黒字でした。しかし、ある日突然、手形の決済ができないという連絡が入りました。いわゆる「黒字倒産」です。

原因は、やはり在庫でした。流行を追いかけるあまり、大量に仕入れた商品が売れ残り、倉庫に山積みになっていたのです。会計上は「資産」として計上されているため、決算書は黒字に見えます。しかし、実際には現金化できない「罪庫」の山。新たな仕入れ資金も、従業員の給与も、そして手形の支払いも、すべてが滞ってしまったのです。

この経験は、私に在庫管理の重要性を痛感させました。売上や利益だけでなく、キャッシュフロー、そしてその源泉となる在庫の回転を常に監視すること。それこそが、企業存続の生命線なのです。

関連記事: その融資、本当に必要?アパレル業界の資金繰りを劇的に変える選択肢と見極め方

あなたの会社は大丈夫?在庫回転期間の計算方法と業界別目安

まずは自社の健康診断!在庫回転期間を計算してみよう

自社の在庫が適正かどうかを判断する最初のステップは、「在庫回転期間」を計算することです。これは、在庫が何日で現金化されるかを示す指標です。

在庫回転期間(日数)= 棚卸資産 ÷(売上原価 ÷ 365)
在庫回転期間(月数)= 棚卸資産 ÷(売上原価 ÷ 12)

計算に必要な「棚卸資産」と「売上原価」は、決算書の貸借対照表と損益計算書で確認できます。まずは、ご自身の会社の数値を当てはめて計算してみてください。

関連記事: 決算書の読み方【初心者編】貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の3つのポイント

【業種別】自社のポジションを確認!在庫回転期間の平均値

算出した在庫回転期間が、業界平均と比べてどうなのかを確認してみましょう。以下は、信頼できる統計データに基づく業種別の目安です。

業種在庫回転期間(日数)の中央値
小売業27.4日
卸売業36.5日
製造業114.8日
建設業12.4日

上記はあくまで目安です。取扱商材によって大きく異なります。

佐々木 真帆

自社の数値が業界平均よりも著しく長い場合は、在庫が過剰である可能性が高いと言えます。

在庫回転期間とは?の図解

もう一つの重要指標「在庫回転率」との違いとは?

在庫回転期間とよく似た指標に「在庫回転率」があります。これは、一定期間に在庫が何回入れ替わったかを示す指標です。

  • 在庫回転期間:在庫が現金化されるまでの「期間」(日、月)
  • 在庫回転率:在庫が入れ替わる「回数」

両者は表裏一体の関係にあり、どちらの指標も在庫状況を把握する上で重要です。両方の視点から、自社の在庫管理体制を多角的に分析しましょう。

資金繰りを劇的に改善する!在庫回転期間の短縮・改善策5選

1. 需要予測の精度を上げる

私がコンサルティングで最初にお伝えするのは、「勘や経験だけに頼らない」ということです。過去の販売実績、季節変動、市場のトレンドなどを分析し、客観的なデータに基づいた需要予測を行うことが、適正在庫の第一歩です。Excelの簡単な分析でも、その精度は格段に向上します。

2. ABC分析で「管理すべき在庫」を見極める

全ての在庫を同じように管理するのは非効率です。そこで有効なのが「ABC分析」。在庫を売上への貢献度に応じてA・B・Cの3ランクに分け、管理にメリハリをつける手法です。

  • Aランク:最重要在庫。売上の大部分を占める。絶対に欠品させない重点管理対象。
  • Bランク:中程度の重要度。現状維持を基本とする。
  • Cランク:重要度が低い。在庫を減らす、あるいは取り扱い中止も検討。

この分析により、限られたリソースを重要なAランクの在庫に集中させ、管理を効率化できます。

3. 発注方式を見直す(定期発注・定量発注)

発注方式には、大きく分けて「定期発注方式」と「定量発注方式」があります。

  • 定期発注方式:毎週月曜日など、決まったタイミングで発注する。
  • 定量発注方式(発注点方式):在庫が一定量(発注点)を下回ったタイミングで、あらかじめ決めた量を発注する。

例えば、高価で重要なAランク商品は需要予測を立てて定期的に発注し、安価で需要が安定しているCランク商品は定量発注にするなど、商品の特性に合わせて使い分けるのが有効です。

4. リードタイムを短縮する努力を怠らない

発注してから納品されるまでの「リードタイム」が長ければ長いほど、欠品を防ぐために多くの在庫を抱える必要が出てきます。サプライヤーとの関係を強化し、より短いリードタイムで納品してもらえないか交渉したり、発注プロセスそのものを見直したりすることで、リードタイムは短縮可能です。

5. 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底し、在庫を「見える化」する

倉庫が乱雑な会社は、ほぼ例外なく資金繰りも乱雑です。

これは、私が銀行員時代から一貫して感じていることです。5Sの徹底は、単に職場がきれいになるだけではありません。どこに何がどれだけあるかを正確に把握できるようになり、不良在庫の早期発見や、発注ミスの削減に繋がります。物理的な在庫の「見える化」こそ、健全な在庫管理の土台です。

一歩進んだ財務戦略!キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を理解する

CCCとは?「現金を回収するまでの日数」を測る指標

在庫管理をさらに進化させるために、ぜひ理解していただきたいのが「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」です。これは、商品を仕入れるために現金を支払ってから、その商品が売れて現金として回収されるまでの日数を示します。

CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 – 仕入債務回転日数

CCCが短いほど、効率的に資金を回せている、つまり「資金繰りが上手い」会社であると言えます。

CCCを短縮する3つのアプローチ

CCCを短縮するには、3つの方法があります。

  1. 在庫を早く売る(棚卸資産回転日数の短縮)
  2. 売掛金を早く回収する(売上債権回転日数の短縮)
  3. 買掛金の支払いを遅らせる(仕入債務回転日数の長期化)

在庫管理の改善だけでなく、取引先との支払いサイトの交渉なども含めた、総合的な財務戦略が求められます。

【事例紹介】CCC改善で資金繰りを好転させたA社のケース

私がコンサルティングしたある中小企業は、在庫削減と売掛金の早期回収に徹底的に取り組み、CCCを45日から15日へと劇的に短縮させました。その結果、これまで常に悩みの種だった資金繰りが安定し、銀行からの借入への依存度を大幅に下げることに成功しました。

これは、在庫管理という一点突破から始まった、会社全体の財務改革の成功事例です。

よくある質問(FAQ)

Q: 在庫回転期間の計算で「売上高」ではなく「売上原価」を使うのはなぜですか?

A: 在庫(棚卸資産)は原価で評価されているため、比較対象も同じく原価ベースである「売上原価」を使うのが最も正確だからです。売上高には利益が含まれているため、売上高で計算すると回転期間が実態よりも短く(良く)見えてしまい、判断を誤る可能性があります。

Q: 個人事業主や小規模な会社でも、在庫管理は重要ですか?

A: はい、もちろんです。事業規模に関わらず、在庫は現金の形を変えたものです。特に体力のない小規模な会社ほど、一つの過剰在庫が資金繰りに与えるダメージは大きくなります。むしろ、小規模だからこそ、手元の現金を最大化するために厳密な在庫管理が不可欠です。

Q: 在庫管理システムを導入すべきか迷っています。判断基準はありますか?

A: まずはExcelなどで手動管理を試みることをお勧めします。その上で、「在庫数が合わない」「管理に時間がかかりすぎる」「発注ミスが多い」といった課題が解決できない場合に、システムの導入を検討しましょう。いきなり高機能なシステムを入れるのではなく、自社の課題を解決できるシンプルな機能のシステムから始めるのが失敗しないコツです。

Q: 不良在庫を処分したいのですが、損失を出すのが怖いです。

A: その気持ちはよく分かります。しかし、不良在庫を持ち続けることは、保管コストや管理コストがかかり続けるだけでなく、倉庫スペースを圧迫し、新しい商品を置く機会を失うことにも繋がります。元銀行員の視点から言えば、損失を覚悟で処分し、決算書をクリーンにすることの方が、将来の融資においてはるかに有利に働きます。勇気ある損切りが、未来の利益を生むのです。

Q: 銀行との融資交渉で、在庫についてどのように説明すれば良いですか?

A: 自社の在庫回転期間を業界平均と比較し、適正水準であることを数字で示すことが重要です。もし回転期間が長い場合は、その理由(例:戦略的な在庫投資など)と、今後の改善計画を具体的に説明しましょう。ABC分析の結果を見せ、「重要な在庫に絞って管理しています」とアピールするのも有効です。誠実な情報開示と改善への意欲が、銀行の信頼を得る鍵となります。

まとめ

今回は、在庫回転期間の計算方法から具体的な改善策まで、資金繰りを救うための在庫管理術を解説しました。

重要なのは、在庫を単なる「モノ」ではなく「現金」として捉え、その回転スピードを常に意識することです。

今日から計算できる「在庫回転期間」は、あなたの会社の健康状態を示す重要なバロメーターです。まずは自社の数値を把握し、改善の一歩を踏み出してみてください。

私がこれまで支援してきた多くの中小企業が、在庫管理の見直しをきっかけに、資金繰りの悩みから解放されています。あなたの会社も、必ず変わることができます。

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この記事を書いた人

佐々木真帆は、資金繰りコンサルタントとして活躍する金融のプロフェッショナルである。大手銀行での融資審査経験から独立コンサルタントとしての現在まで、一貫して「企業の生命線である資金繰り」に焦点を当て、その知見を惜しみなく共有している。

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