【インタビュー】なぜ銀行は、私たちのビジネスを理解してくれないのか?若手起業家たちの本音座談会

「このビジネスの革新性を、なぜ銀行は理解してくれないんだ…」

多くの若手起業家が一度は抱えるこの悔しさ。
私、佐々木真帆も、元銀行員として数多くの中小企業様の貸付審査を担当し、革新的なアイデアと銀行の評価基準との間で生まれる”すれ違い”を目の当たりにしてきました。

銀行員だった頃、私が最も悔しかったのは、素晴らしい技術や情熱があるのに、資金繰りが原因で事業を諦めざるを得なかった経営者の、あの悔しそうな表情です。
だからこそ、あなたには同じ思いをしてほしくないのです。

本日は、まさに今、資金調達の壁に直面している若手起業家の皆さんと、この根深い問題について語り合います。

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目次

【座談会Part1】「ビジネスモデルが伝わらない…」起業家たちの嘆きと銀行の視点

若手起業家の本音:「なぜ僕らの『新しい価値』が伝わらないのか?」

佐々木 真帆

本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、皆さんが銀行との交渉で感じている「壁」について、率直なご意見をお聞かせください。まずはSaaSビジネスを展開されているAさん、いかがでしょうか。

Aさん(SaaS事業経営)

まさに今、直面している問題です。私たちのサービスは、顧客の業務効率を劇的に改善するもので、解約率も低く、LTV(顧客生涯価値)で考えれば非常に収益性が高いモデルです。

ですが、銀行の担当者の方にKPIを説明しても、「で、今期の売上と利益は?」という話に戻ってしまう。売上予測の根拠として積み上げ式の顧客獲得計画を示しても、「前例がないので判断が難しい」と一蹴されてしまいました。

Bさん(D2Cブランド経営)

すごく分かります。うちはSNSマーケティングを駆使して、熱狂的なファンを掴むことで成長してきました。広告費は先行投資ですが、CPA(顧客獲得単価)は業界平均よりかなり低いんです。

でも、決算書上はまだ赤字なので、「まずは黒字化してからですね」と。僕らにとっては「未来への投資」なんですが、銀行にとってはただの「赤字」にしか見えないようでした。

元銀行員・佐々木氏の解説:銀行が「前例」と「物的担保」を重視する構造的理由

お二人の話、痛いほどよく分かります。
銀行員時代の私自身が、同じようなジレンマを抱えていましたから。

なぜ、銀行が新しいビジネスモデルの評価に慎重になるのか。
それは、銀行の「審査の仕組み」に根本的な理由があるんです。

銀行は「減点法」で審査する
銀行の融資審査は、基本的に「加点法」ではなく「減点法」です。
審査担当者は、「この事業は成功するだろう」という視点よりも、「この融資が焦げ付くリスクはどこにあるか」という視点で事業計画書を読み解きます。
前例のないビジネスモデルは、過去のデータがないためリスクの算定が難しく、減点対象になりやすいのです。

私が銀行員時代に叩き込まれたのは、「稟議書をいかに早く、上司から『NO』と言われない形で書き上げるか」でした。
担当者は、あなたの事業の成功を願っていないわけではありません。
しかし、それ以上に「自分が担当した融資が、将来問題にならないか」を気にしています。

だからこそ、上司や本部を説得しやすい「過去の実績」や「不動産などの物的担保」といった、誰が見ても分かりやすい材料を求めるのです。
これは担当者個人の資質というより、銀行という組織のリスク管理体制に起因する構造的な問題と言えます。

【座談会Part2】「実績がない」の壁は越えられないのか?

若手起業家の本音:「未来への投資なのに、なぜ過去の実績ばかり問われる?」

Cさん(アプリ開発者)

私たちのアプリは、リリース直後からすごい勢いでダウンロード数が伸びていて、ユーザーからの反応(トラクション)も非常に良いんです。でも、マネタイズはこれからという段階。決算書は当然赤字です。

面談では「素晴らしいですね」と言ってくれるのですが、いざ融資の話になると「まずは実績を…」と。この初期のトラクションこそが僕らにとっての実績なのに、と感じます。

Aさん(SaaS事業経営)

そうなんです。「チームの専門性や情熱は評価されないのか」と思いますよね。私自身はこの業界で10年以上の経験がありますし、CTOは誰もが知るIT企業出身です。このチームならやり遂げられる、という確信がある。

でも、評価されるのは会社の決算書だけ。個人の信用情報は見られても、チームが持つポテンシャルは全く評価の対象外なんだなと痛感しました。

元銀行員・佐々木氏の解説:銀行員が本当に見ている「返済能力」の正体

皆さんがおっしゃる「実績」と、銀行員が言う「実績」には、少し認識のズレがあるかもしれません。

銀行員が「実績」という言葉を使う時、本当に見ているのは「安定したキャッシュフローを生み出す能力」です。
決算書が黒字であることは、その最も分かりやすい証明だから、まずそこを問われるわけです。

しかし、諦める必要はありません。
私が審査担当者として見てきた中で、創業期で実績が乏しくても融資に繋がったケースには、いくつかの共通点がありました。

1. 経営者の同業種での豊富な経験

Aさんのように、業界経験が長いことは強力なアピールになります。「個人としての実績」を事業計画に落とし込み、なぜ成功できるのかを具体的に語ることが重要です。

2. 具体的なテストマーケティングの結果

Cさんのアプリのように、既に顧客からの良い反応がある場合は、それを「数字」で見せることが鍵です。ダウンロード数だけでなく、アクティブユーザー率や継続率など、「事業が軌道に乗る蓋然性」を示すデータを提示しましょう。

3. 既に取引が見込める顧客リスト

例えば、前職からの繋がりで、既に契約書や見積書を交わしている顧客がいる場合、それは「未来の売上」ではなく「確実性の高い売上」として評価されます。

佐々木 真帆

要するに、「事業計画の数字が、単なる希望的観測ではなく、何らかの根拠に基づいていること」を証明できれば、決算書が赤字でも交渉のテーブルには乗れるのです。

【元銀行員が解き明かす】銀行があなたのビジネスを「理解できない」3つの根本原因

座談会で挙がった悩みを整理すると、銀行があなたのビジネスを「理解できない」根本原因は、大きく3つに集約されます。

原因1:評価基準のズレ ―「成長可能性」より「返済確実性」

起業家であるあなたは「未来の大きなリターン(成長可能性)」を見ています。
一方、銀行が見ているのは「貸したお金が、利息とともに期日通り返ってくるか(返済確実性)」です。

この視点の違いが、全てのすれ違いの根源です。
私が銀行で使っていたスコアリングシートを簡略化すると、以下のような項目で評価されていました。

評価項目評価の視点
財務状況自己資本比率、流動比率、債務償還年数など
返済能力営業キャッシュフロー、経常利益など
担保・保証不動産担保の有無、保証人の信用力
経営者業界経験、個人信用情報
事業計画売上計画の妥当性、資金使途の明確性

見ての通り、「ビジネスの革新性」や「市場の将来性」といった項目は直接的には評価されにくい構造になっています。
あなたの語る壮大なビジョンも、銀行員は「で、それはどうやって返済原資に繋がるの?」というフィルターを通して聞いているのです。

原因2:担当者の知識と裁量の限界

厳しい現実ですが、銀行の担当者はあなたの業界の専門家ではありません。
私が法人営業担当だった頃も、製造業から飲食、ITまで、数十社を同時に担当していました。
短期間で担当エリアも変わるため、一つの業界を深く理解するには限界があります。

そのため、担当者は自分が理解できる範囲、つまり「過去の財務データ」や「分かりやすい事業モデル」で判断しようとします。
また、最終的な決裁権は担当者ではなく、支店長や本部が持っています。
担当者の役割は、あなたの事業の素晴らしさを伝える「プレゼンター」ではなく、あくまで「上司を説得するための書類作成者」に近いのです。

原因3:コミュニケーションの断絶 ―「専門用語」と「情熱」の壁

「LTVが…」「CPAが…」
起業家の皆さんが当たり前に使う言葉も、銀行員には馴染みがない場合があります。
専門用語を多用した説明は、「煙に巻こうとしているのでは?」と警戒心を与えかねません。

逆に、「この事業には自信があります!」「絶対に成功させます!」といった情熱だけの説明も危険です。
私が融資を断念せざるを得なかった案件の多くが、このコミュニケーションの断絶に起因していました。
情熱は素晴らしいものですが、銀行員にとっては「客観的な根拠のない、リスク要因」と映ってしまうことがあるのです。

明日からできる!銀行にビジネスを「理解させる」ための交渉術

では、どうすればこの深い溝を埋めることができるのか。
ここからは、私がコンサルタントとして多くの経営者にアドバイスしている、明日から使える具体的な交渉術をお伝えします。

Step1:相手の言語で語る ― 事業計画書を「稟議書作成マニュアル」に変える

あなたの事業計画書を、銀行の担当者が「稟議書を書きやすいマニュアル」に変えてあげるのです。
これが最も重要な視点です。

  • 「市場規模」は「売上予測の根拠」として語る
    • NG:「この市場は1兆円規模で…」
    • OK:「この地域のターゲット人口〇〇人のうち、△%が顧客になると見込み、客単価□円を掛けると、初年度売上は××円となります。」
  • 「競合優位性」は「返済原資の確保」に繋げる
    • NG:「当社の技術は他社には真似できません」
    • OK:「当社の独自技術により、原価を〇%削減できるため、他社より高い利益率(=返済原資)を確保できます。」

このように、あなたの事業の強みを「銀行が安心する言葉」に翻訳してあげましょう。

Step2:数字にストーリーを乗せる ― 財務3表で未来を語る

財務3表(損益計算書:PL、貸借対照表:BS、キャッシュフロー計算書:CF)はバラバラに作るものではありません。
この3つを連動させて、「なぜ今投資が必要で、それがどう利益に繋がり、返済に回るのか」という一連のストーリーを語るのです。

【簡単なストーリーの例】

  1. (資金調達) 銀行から1,000万円借ります。 → BSの負債と資産(現金)が増える
  2. (投資) そのお金で新しい機械を買います。 → BSの資産の中身が、現金から固定資産に変わる
  3. (生産・販売) 新しい機械で生産性が上がり、売上が増え、利益が出ます。 → PLの売上・利益が増える
  4. (利益の蓄積) 儲かった利益は会社に蓄積されます。 → BSの純資産(利益剰余金)が増える
  5. (返済) 儲けの中から、銀行にお金を返します。 → CFがプラスになり、BSの負債と資産(現金)が減る

このようにお金の流れを一つの物語として説明することで、担当者は融資の必要性と返済計画をセットで理解しやすくなります。

Step3:担当者を「味方」につける ― 定期的な情報提供と相談

融資は、いきなり「お金を貸してください」とお願いしに行くものではありません。
相談に行くずっと前から、担当者と良好な関係を築き、あなたの事業の「応援団」に育てていくことが重要です。

私が付き合ってきた「できる経営者」が実践していたのは、以下のような地道なアクションです。

試算表の定期的な提出

3ヶ月に一度でも良いので、「会社の健康診断結果です」と言って試算表を届け、事業の進捗を報告する。

ポジティブな情報の共有

「新しい取引先が決まりました」「メディアに掲載されました」といった良いニュースをこまめに伝える。

ちょっとした経営相談

「今、こういうことで悩んでるんだけど、何か良い事例はないですか?」と、頼りにしている姿勢を見せる。

こうした積み重ねが、「この経営者は信頼できる」「この会社を応援したい」という担当者の個人的な感情を育て、いざという時に親身になって動いてくれる力になるのです。

よくある質問(FAQ)

Q: 日本政策金融公庫と民間銀行では、審査の視点はどう違いますか?

A: 私の経験上、日本政策金融公庫は「創業支援」という政策的な側面が強く、事業の将来性や社会的な意義も加味してくれます。 一方、民間銀行はより「事業の安全性と収益性」をシビアに見る傾向があります。 まずは公庫で実績を作り、その後に民間銀行と取引を拡大するのが王道です。

Q: 融資面談で「これだけは言ってはいけない」NGワードはありますか?

A: 「売上はまあ、なんとかなると思います」といった根拠のない楽観論は最も危険です。 私が審査担当者なら一発で警戒します。また、「銀行はビジネスをわかってない」といった批判的な態度は禁物です。あくまでパートナーとして相談する姿勢が重要です。

Q: 自己資金はどれくらい用意すれば有利になりますか?

A: 一概には言えませんが、私の見てきた感覚では、最低でも融資希望額の3分の1程度は欲しいところです。 自己資金は、事業に対する経営者の「本気度」を示す最も分かりやすい指標だからです。コツコツ貯めてきた経緯がわかる通帳のコピーは、強力なアピール材料になります。

Q: 一度融資を断られたら、もう同じ銀行では無理なのでしょうか?

A: 諦めるのは早いです。私が担当したお客様でも、一度お断りした後に事業計画を練り直し、半年後に再挑戦して融資に繋がったケースはあります。 大切なのは、断られた理由を真摯に受け止め、具体的な改善策を示して「事業が進展した」ことを見せることです。

Q: 専門用語を使わずにビジネスの革新性を伝えるコツはありますか?

A: 「具体的に言うと、誰のどんな悩みを解決できるのか」という顧客視点で話すことです。例えば「当社のSaaSは…」ではなく、「これまで手作業で3時間かかっていた経理作業を、当社のサービスを使えばスマホで5分で終わらせることができます」のように、中学生でもわかる言葉でメリットを語ることが、私が最も効果的だと感じた伝え方です。

まとめ

若手起業家の皆さんの情熱と、銀行という組織の論理。両者の間には確かに深い溝があります。

しかし、それは決して埋められないものではありません。

私自身、銀行員時代に融資をお断りした企業のオーナーの悔しそうな顔を忘れることができません。
だからこそ、今、両者の「通訳」として皆さんの力になりたいのです。

今日お伝えした「相手の言語で語る」視点を持てば、銀行はあなたの事業を阻む壁ではなく、共に未来を創る強力なパートナーになり得ます。

この記事が、皆さんの挑戦を次の一歩へ進めるための羅針盤となることを心から願っています。

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この記事を書いた人

佐々木真帆は、資金繰りコンサルタントとして活躍する金融のプロフェッショナルである。大手銀行での融資審査経験から独立コンサルタントとしての現在まで、一貫して「企業の生命線である資金繰り」に焦点を当て、その知見を惜しみなく共有している。

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