なぜ中小企業はファクタリングに頼らざるを得ないのか？

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資金繰りに行き詰まる苦しさは、企業経営に携わる方であれば、誰もが一度は経験する悩みではないでしょうか。

売上は伸びている。
利益も確保できている。
それにもかかわらず、現金が手元にない──。

この理不尽にも思える状況は、特に中小企業にとって、決して他人事ではありません。

また、ファクタリング専門会社に転職して以降は、資金ショート寸前の現場に立ち会うことも珍しくありませんでした。

そんな経験を踏まえ、この記事では、

• なぜ中小企業がファクタリングに頼らざるを得ないのか
• ファクタリングを活用する上での正しい知識と注意点

を、できる限り冷静に、かつ親身な視点でお伝えしていきます。

ファクタリングは万能ではありません。
しかし、適切な理解と使い方さえ押さえれば、企業経営にとって強力な資金繰り支援策となり得るのです。

それでは、まず「中小企業の資金繰り事情と銀行融資の限界」について、詳しく見ていきましょう。

中小企業の資金繰り事情と銀行融資の限界

資金繰り悪化のリアル：黒字倒産リスクと支払いサイト問題

「黒字なのに倒産する」──。
一見すると矛盾しているようですが、これは中小企業の現場では決して珍しい話ではありません。

私自身、銀行勤務時代に融資相談に来られた経営者から、こんな声を聞いたことがあります。

「受注は増えているのに、現金が回らないんです……。」

この背景にあるのが、支払いサイトと回収サイトのミスマッチです。

売上は確かに計上されているものの、

• 売掛金の回収が2～3か月先
• 仕入れや人件費などの支払いは毎月発生

といったタイムラグが生じることで、キャッシュフローが追いつかなくなるのです。

具体例（実際に見聞きしたケース）

• 建設会社A社：完成引き渡し後90日後に売掛金回収。
  しかし下請け業者への支払いは60日以内。資金ショート寸前に。
• 販促制作会社B社：大手広告代理店からの回収が120日後。
  その間の人件費・印刷費支払いに苦慮。

これらは典型的な「黒字倒産リスク」に直結するパターンです。

銀行融資の壁：なぜ必要な時に借りられないのか？

資金繰りが厳しくなったとき、まず思い浮かぶのが「銀行からの融資」ではないでしょうか。

しかし、実際には多くの中小企業が、最も資金を必要とする局面で銀行融資を受けられない現実に直面しています。

なぜでしょうか？

ここで、銀行側の融資判断プロセスを整理してみましょう。

つまり、「今すぐ現金が必要だ」という理由だけでは、審査は通りません。

さらに、信用保証協会付き融資（保証協会がリスクを肩代わりしてくれる融資）でさえ、

• 売上の急減
• 債務超過
• 営業利益の連続赤字

といった状況があると、審査落ちしてしまうのです。

これは、私がファクタリング会社に在籍していた際に、「信用保証協会にも断られた。もう打つ手がない」という相談が相次いだことからも、肌感覚として強く感じています。

ファクタリングとは？仕組み・種類と社会的認知の広がり

ファクタリングの基本：売掛債権の早期現金化

「ファクタリング」という言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
もしかすると、まだ馴染みのない方もいらっしゃるかもしれません。

簡単に言えば、ファクタリングとは売掛債権を早期に現金化する手法です。

通常、取引先に対して発生した売掛金は、一定の支払いサイト（例：30日、60日、90日後）を経て入金されます。
しかし、その間も人件費や材料費、家賃などの支払いは待ってくれません。

この「タイムラグ」を埋める手段として、ファクタリングが活用されるのです。

ファクタリングの基本的な流れ

1. 売掛債権をファクタリング会社に譲渡
2. ファクタリング会社が手数料を差し引いた金額を即時支払い
3. 売掛金の期日に、取引先から直接または間接的に入金

こうすることで、数か月先の売上を今すぐ現金化できるわけです。

ただし、仕組みを正しく理解しないまま使うと、手数料負担などのリスクもあります。
そのため、次に「種類と選び方」についても見ていきましょう。

2社間・3社間ファクタリングの違いと選び方

ファクタリングには、大きく分けて2つの方式があります。

種類	特徴	メリット	デメリット
2社間ファクタリング	自社とファクタリング会社のみで契約（取引先への通知なし）	– 秘密保持ができる – 手続きが早い	– 手数料が高め – ファクタリング会社がリスクを取るため
3社間ファクタリング	自社・ファクタリング会社・取引先の三者で契約（取引先に通知・同意が必要）	– 手数料が低め – 安定した資金化	– 取引先の理解・協力が必要 – 秘密保持が難しい場合あり

選び方のポイントはシンプルです。

• 取引先との関係性や信用力を重視するなら→3社間
• とにかく急ぎで、秘密裏に資金調達したいなら→2社間

実際、私が担当していた企業様でも、「得意先に知られたくない」という理由で2社間ファクタリングを選択するケースが非常に多くありました。

とはいえ、2社間は手数料が高めですので、単なる応急処置ではなく、計画的な利用が望まれます。

ファクタリングの社会的認知の変化

かつてファクタリングは、「よく分からない資金調達」「グレーな金融手段」といったイメージを持たれがちでした。

しかし、近年では大きく状況が変わってきています。

その一因が、2020年の民法改正です。

• 以前は、売掛債権の譲渡を禁止する契約条項（譲渡禁止特約）が強力に効力を持っていました。
• しかし改正後は、こうした特約も「第三者への対抗要件を具備すれば無効」となり、譲渡が容易になったのです。

これにより、正規のファクタリングサービスがビジネスの現場で広く受け入れられるようになりました。

出典: 民法の一部を改正する法律（債権法改正）について

また、中小企業庁の発行する「中小企業白書」でも、ファクタリングは資金繰り改善策の一つとして公式に言及されるようになっています。

このように、ファクタリングは徐々に「正当な資金調達手段」として認知が進んでいるのです。

私自身、2017年にファクタリング業界に飛び込んだ頃とは、世間の見方が大きく変わったと実感しています。

なぜ中小企業はファクタリングに頼らざるを得ないのか

銀行融資NGの現場から見る「最後の現実的選択肢」

「まずは銀行融資を」というのは、資金繰りに悩む中小企業にとって、ごく自然な発想です。

しかし、現実はそう甘くありません。

私はファクタリング会社で営業をしていた頃、こうした声を何度も耳にしました。

「取引銀行に相談したが、『現時点では融資は難しい』と言われた……。」

「信用保証協会にも申し込んだが、与信審査で断られてしまった……。」

なぜ、融資が通らないのか。

その理由は、多くの場合、

• 業績悪化や財務悪化
• 業界全体の先行き不透明感
• 代表者個人の信用力不足

といった要素に集約されます。

特に、コロナ禍以降は、銀行側も融資に対して慎重な姿勢を強めています。

こうなると、急な支払い資金を用意するための「現実的な選択肢」が、ほとんど残されないのです。

そこで登場するのが、ファクタリングです。

銀行融資とは違い、ファクタリングは、

• 「過去」ではなく「現在ある売掛金」に着目する
• 財務状況が多少悪くても利用できる
• 審査スピードが圧倒的に早い

という特徴を持っています。

つまり、資金繰りに追い詰められた中小企業にとって、ファクタリングは「最後の砦」であり、唯一の現実的手段となるケースが非常に多いのです。

売掛金回収の遅れが命取りになる

中小企業の資金繰りを圧迫する最大の要因の一つが、売掛金の回収遅延です。

特に、支払いサイトが「90日」や「120日」と長い業界では、致命的なダメージとなり得ます。

ここで、簡単なシミュレーションをしてみましょう。

つまり、売上は増えても、資金繰りはどんどん苦しくなるのです。

しかも、取引先の支払いが遅延すれば、さらに悪循環に陥ります。

資金繰り悪化のスパイラル

1. 売掛金回収が遅れる
2. 自社の支払い遅延が発生
3. 信用不安から取引縮小や売上減少
4. 資金繰り悪化が加速

このスパイラルを断ち切る手段として、売掛金を即時現金化できるファクタリングは、極めて有効なのです。

私がこれまで担当した企業の中にも、

• 「入金まで1か月待てなかった」
• 「支払いが一日遅れたら、信用が失墜するところだった」

といった理由で、急遽ファクタリングを利用し、窮地を脱した例が少なくありません。

もちろん、ファクタリングは万能薬ではありません。
ただ、「現金のズレ」を埋める緊急対応策として、非常に実用性が高いということは、現場で身をもって痛感してきました。

ファクタリングのメリットと冷静に見るべきリスク

ファクタリングの強み：スピード・信用力不要・負債化しない

ファクタリングが中小企業に重宝される理由は、単なる「資金調達スピードの速さ」だけではありません。

主なメリットを整理すると、次の通りです。

ファクタリングの主なメリット

• 審査が柔軟でスピーディー
  • 最短即日資金化も可能。急ぎの支払いに間に合う。
• 信用力に頼らない
  • 企業の財務内容よりも、「売掛先の信用力」が重視されるため、多少赤字でも利用できる。
• バランスシートを悪化させない
  • ファクタリングは「売掛金の売却」であり、借入金ではないため、負債として計上されない。
• 担保や保証人が不要
  • 不動産担保や社長個人保証が求められない。

これらの特性は、特に「これ以上借金を増やしたくない」「銀行からの借入が難しい」企業にとって、非常に魅力的です。

見落としがちなリスク：コスト負担と依存スパイラル

ただし、ファクタリングには冷静に見つめなければならないリスクも存在します。

特に注意すべきポイントは、次の2点です。

ファクタリングの主なリスク

• 手数料負担が重い
  • 2社間ファクタリングでは、売掛金額に対して10％前後、場合によっては20％以上の手数料がかかるケースも。
• 常態化による資金繰り悪化
  • 一度ファクタリングに頼り始めると、毎月売掛金を前倒しして資金繰りを回す「依存スパイラル」に陥るリスクがある。

依存スパイラルのイメージ

売掛金を前倒し→次月以降の売上減少→再度ファクタリング利用→手数料増大→さらに資金繰り悪化

私が支援したある企業でも、「最初は一度だけのつもりだったが、気づけば毎月ファクタリングに頼る体質になってしまった」という事例がありました。

この状態に陥ると、資金繰りがさらに厳しくなり、抜け出すのが難しくなります。

そのため、ファクタリングを利用する際には、

• 本当に今だけの緊急対応なのか？
• 来月以降の資金繰り見通しは立っているか？

といった点を冷静にチェックすることが不可欠です。

ファクタリングは、あくまでも「応急処置」──。
これを忘れないことが、賢い活用の第一歩だと、私は強く感じています。

ファクタリングと他の資金調達手段の比較

銀行融資・ビジネスローン・ABL（売掛債権担保融資）との比較

ファクタリングは確かに便利な資金調達方法ですが、常に最適解とは限りません。
状況に応じて、他の手段との比較検討も必要です。

ここでは、主要な資金調達手段との違いを整理してみましょう。

手段	特徴	メリット	デメリット
銀行融資	財務内容に基づく中長期資金調達	– 金利が低い – 長期安定資金を確保できる	– 審査が厳しい – 時間がかかる
ビジネスローン	金融機関以外からのスピード融資	– 審査が比較的緩やか – 即日融資も可能	– 金利が高い – 返済負担が重くなりがち
ABL（売掛債権担保融資）	売掛債権や在庫を担保に資金化	– 資産を有効活用できる – 資金枠が広がる場合も	– 担保評価次第で資金化額に制限あり
ファクタリング	売掛債権の売却による資金調達	– 負債にならない – 信用情報に影響なし – 最短即日資金化	– 手数料負担が大きい – 長期的資金繰りには不向き

こうして整理してみると、ファクタリングはやはり

• スピード重視
• 信用力に不安がある場合

に向いた手段だと分かります。

逆に、長期的な成長資金や安定運転資金が目的なら、やはり銀行融資が理想的でしょう。

私が以前担当した企業でも、「当面はファクタリングで急場をしのぎつつ、半年後に銀行融資を受け直す」という戦略をとったケースがありました。

つまり、状況に応じて手段を柔軟に使い分けることが大切なのです。

ファクタリングに頼らないための資金繰り改善アプローチ

ファクタリングはあくまで「応急処置」。
できることなら、根本的な資金繰り改善を目指したいものです。

ここでは、比較的すぐに取り組める資金繰り改善施策をご紹介します。

資金繰り改善のためにできること

• 支払いサイトの交渉
  • 取引先と支払い条件（支払期限）を見直し、キャッシュアウトを遅らせる。
• 売掛金回収の早期化
  • 早期回収割引（ディスカウント）提案などにより、入金を前倒しする。
• 在庫圧縮
  • 不要な在庫を処分してキャッシュ化し、在庫回転率を上げる。
• 固定費削減
  • 家賃や通信費、人件費の見直しにより、支出を抑える。

これらの施策は、ファクタリングに頼らない経営体質づくりにも直結します。

応急手段に頼るだけではなく、自社の体力を取り戻す努力も、長期的な経営安定には不可欠なのです。

よくある質問（FAQ）

Q: ファクタリングは違法行為ではないのですか？

A:いいえ、正規のファクタリングは完全に合法です。

売掛債権を譲渡して資金化する行為そのものは、民法上も商取引として認められています。
2020年の民法改正により、債権譲渡の自由度はさらに高まりました。

ただし注意したいのは、

• 給与ファクタリング（従業員の給料債権を対象とする悪質スキーム）や
• 偽装貸付型ファクタリング（実態は貸金であるにもかかわらず、ファクタリングと偽装する手法）

こうした違法業者も存在する点です。

私自身、現場で相談を受けた中には、「過去に違法な業者を使ってしまい、二重債務に苦しんだ」という企業もありました。

正規業者を選ぶためには、

• 登記簿謄本の有無
• 貸金業登録の有無（本来ファクタリングなら不要）
• 事務所所在地の確認

など、基本的なチェックを怠らないことが重要です。

Q: ファクタリングを使うと銀行評価に影響しますか？

A:通常、適切に使っている限りは銀行評価に大きな影響はありません。

なぜなら、ファクタリングは「借入」ではなく「債権売却」だからです。
したがって、直接的に負債増加とはみなされません。

しかし注意したいのは、

• 慢性的にファクタリングを利用している
• ファクタリングを常時利用しないと資金繰りが回らない

といった状況が続くと、間接的に「経営安定性に疑問あり」と見なされる可能性がある点です。

私の経験でも、「半年以上にわたり常時ファクタリングを続けた企業が、追加融資を渋られた」というケースがありました。

一時的な資金繰り補助なら問題ありませんが、常態化は避けるべきです。

Q: 2社間・3社間、どちらを選ぶべきですか？

A:選択基準はズバリ、信用重視か秘密保持重視かです。

• 信用重視なら → 3社間ファクタリング
  • 売掛先に通知・同意を得るため、透明性が高く、手数料も低め。
• 秘密保持重視なら → 2社間ファクタリング
  • 売掛先に知られず、迅速に資金化できるが、手数料は高め。

実際、私が支援した企業では、「長年の得意先に知られたくない」という理由で2社間を選ぶケースが多数派でした。

ただし、資金コストを抑えたいなら、可能であれば3社間を選ぶ方が有利です。

Q: ファクタリング利用は取引先にバレる可能性がありますか？

A:2社間ファクタリングを利用すれば、通常は取引先に通知されません。

ただし、以下の場合には注意が必要です。

• 売掛債権譲渡登記を行った場合（登記情報を第三者が確認できる）
• ファクタリング会社が売掛先に直接連絡を取った場合（契約内容次第）

特に登記については、ファクタリング会社と事前に

• 登記をするのか
• 秘密保持条項をどう設定するのか

をしっかり確認しておきましょう。

Q: ファクタリングを複数社同時に使うことはできますか？

A:理論上は可能ですが、基本的にはおすすめしません。

理由はシンプルで、

• 債権管理が煩雑になる
• ダブル譲渡などのトラブルリスクが高まる

からです。
どうしても複数利用せざるを得ない場合は、

• 譲渡対象売掛金をきちんと分ける
• 各ファクタリング会社との契約内容を精査する

など、慎重な管理が必須です。

基本は、信頼できる1社に絞って取引するのが望ましいでしょう。

まとめ

ファクタリングは、中小企業にとって時に救命手段となり得ます。

売掛金回収までの時間を待てない状況でも、迅速に資金調達できるファクタリングは、資金繰り悪化を防ぐ有力な選択肢です。

ただし、繰り返しお伝えしてきた通り、

• 手数料負担
• 依存スパイラルのリスク

など、見落としてはならない注意点も存在します。

私自身、銀行・ファクタリング両方の現場で、多くの成功例・失敗例を見てきました。

最も重要なのは、「正しく知り、計画的に使うこと」です。

応急処置としてファクタリングを活用しつつ、根本的な資金繰り改善にも取り組む。これが、中長期的な企業成長につながる王道だと、私は信じています。

まずは、

• 現在のキャッシュフロー状況を冷静に把握する
• 必要であれば、複数の資金調達手段を比較検討する

そんな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。

中小企業の皆さまが、資金繰りという大きな壁を乗り越え、さらなる成長を遂げられることを、心から願っています。