【2026年問題】手形廃止で変わる資金調達の新常識｜ファクタリングへの移行戦略

2026年度末に迫る約束手形の利用廃止。

長年の商慣習が大きく変わるこの「2026年問題」を前に、多くの経営者や財務担当者の皆様が、今後の資金調達に漠然とした不安を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

手形に代わる決済手段として「でんさい」が推奨されていますが、果たしてそれが唯一の、そして最善の選択肢なのでしょうか。

本記事では、その両方の現場を知る専門家の視点から、手形廃止の背景と企業への影響を分かりやすく解説します。
その上で、新たな資金調達の選択肢として注目される「ファクタリング」に焦点を当て、でんさいとの違いやメリットを徹底比較。
手形取引からファクタリングへスムーズに移行するための具体的な戦略まで、現場の知見を交えてご提案します。

この記事が、貴社の資金繰り戦略を見直す一助となれば幸いです。

そもそも「2026年問題」とは？手形廃止の背景と企業への影響

なぜ今、約束手形が廃止されるのか？

長年、企業間取引の決済手段として利用されてきた約束手形が、なぜ今、廃止の方向へ進んでいるのでしょうか。
政府と金融界は、2026年度末を目標に、手形交換所の機能を停止し、紙の手形を全面的な電子化へ移行させる計画を進めています。

これは法律による強制ではありませんが、手形を決済するインフラ自体がなくなるため、「実質的な廃止」と言えます。
その背景には、現代のビジネス環境において手形が抱える、看過できないデメリットの存在があります。

受取側企業の資金繰り負担

手形は支払期日（サイト）が数ヶ月先になることが多く、その間、売上はあっても現金がないという状況を生み出します。

コスト・事務負担

一枚ごとに印紙税がかかるほか、発行・郵送・保管といった物理的な管理コストと手間が発生します。

紛失・盗難リスク

紙媒体であるため、紛失や盗難のリスクが常につきまといます。事故が起きた際の手続きは非常に煩雑です。

非効率性

手形の裏書譲渡は手続きが複雑で、現代のスピード感あるビジネスにはそぐわない側面があります。

【ポイント】
手形の廃止は、単なるペーパーレス化ではありません。
企業間の取引慣行をより効率的で、安全なものへと転換させ、特に中小企業の資金繰りを円滑にすることを目的とした、国を挙げた取り組みなのです。

手形廃止が中小企業にもたらす資金繰りへの影響

手形の廃止は、特に中小企業の資金繰りに大きな影響を及ぼす可能性があります。
これまで、数ヶ月先の支払期日（手形サイト）があることで、支払いを先延ばしにでき、それが一種の資金繰り調整弁として機能していた企業も少なくないでしょう。

また、急な運転資金が必要になった際には、銀行で「手形割引」を利用し、期日前に現金化することで急場をしのぐ、という手法も一般的でした。

手形が利用できなくなると、これまで手形割引で資金調達をしていた企業は、新たな手段を確保しなければなりません。
支払サイトが短期化する圧力も強まるため、キャッシュフローの管理をより一層、緻密に行う必要に迫られます。

この変化に対応できなければ、黒字であっても資金がショートする「黒字倒産」のリスクが高まることも考えられます。
まさに今、すべての企業が資金調達のあり方を見直すべき転換点に立っているのです。

手形廃止後の主要な代替手段｜「でんさい」と「ファクタリング」を徹底比較

手形に代わる手段として、主に「でんさい」と「ファクタリング」が注目されています。
それぞれの特徴を正しく理解し、自社に合った方法を選ぶことが重要です。

次世代の決済インフラ「でんさい」の特徴とメリット・デメリット

政府や金融機関が推奨しているのが「でんさい（電子記録債権）」です。
これは、手形の仕組みを電子化し、手形のデメリットを解消するために作られた新しい決済インフラです。

【ポイント】
「でんさい」は、手形の利便性を引き継ぎつつ、デメリットを解消した正統進化版と言えるでしょう。
ただし、取引先を巻き込む必要があり、あくまで融資の枠組みに近い側面も持ち合わせています。

売掛債権を即時資金化する「ファクタリング」の特徴とメリット・デメリット

もう一つの有力な選択肢が「ファクタリング」です。
これは、企業が持つ売掛債権（請求書）をファクタリング会社に売却することで、支払期日を待たずに現金化する金融サービスです。

【ポイント】
ファクタリングは、融資とは全く異なるアプローチの資金調達手法です。
特に「スピード」と「リスク回避」を重視する場合に、その真価を発揮します。

【比較表】自社に合うのはどっち？目的別の選び方

「でんさい」と「ファクタリング」、どちらが自社に適しているのか。
以下の比較表を参考に、目的別に検討してみてください。

比較項目	でんさい（割引）	ファクタリング	選び方のポイント
資金化スピード	数日〜1週間程度	最短即日〜数日	とにかく急ぐならファクタリングが有利
コスト（手数料）	比較的安い	比較的高め	コストを最優先するならでんさい割引
貸し倒れリスク	利用者が負う	ファクタリング会社が負う	リスクを完全に切り離したいならファクタリング
取引先への影響	取引先の加入が必須	2社間契約なら通知不要	取引先に知られたくない場合は2社間ファクタリング
審査の対象	自社の信用力	売掛先の信用力	自社の財務状況に不安がある場合はファクタリング
会計上の扱い	借入金（負債）	資産の売却（負債にならない）	財務体質を改善したいならファクタリング

【決定的な違いは「償還請求権」の有無】
でんさい割引や手形割引では、万が一取引先が倒産した場合、割引した金融機関から代金の返還を求められます（償還請求権あり）。
一方、一般的なファクタリング（ノンリコース契約）では、その返済義務がありません。この「貸し倒れリスクを誰が負うか」が、両者を分ける最も大きな違いです。

なぜ今ファクタリングが注目されるのか？手形割引にはない3つのメリット

手形廃止後の選択肢として、なぜ特にファクタリングが注目されているのでしょうか。
そこには、手形割引や銀行融資にはない、独自のメリットが存在します。

メリット1：償還請求権（リコース）がない安心感

前述の通り、これが最大のメリットです。
ノンリコース契約のファクタリングを利用すれば、売掛債権を売却した時点で、その債権に関するリスクは完全にファクタリング会社へ移転します。

たとえ売却後に取引先が倒産し、売掛金が回収不能になったとしても、あなたがその代金を返済する必要はありません。
これは、単なる資金調達に留まらず、「売掛金の保証」という保険的な役割も果たすことを意味します。

メリット2：銀行融資よりスピーディーかつ柔軟な資金化

私が銀行員だった頃、融資の審査には事業計画書の提出から始まり、多くの手続きと時間を要するのが常でした。
しかし、ファクタリングの審査で最も重視されるのは、あなたの会社ではなく「売掛先の支払能力」です。

そのため、赤字決算や税金の滞納、創業間もないといった理由で銀行融資を断られた企業でも、優良な売掛債権さえあれば利用できる可能性があります。
申し込みから最短即日で入金されるスピード感は、急な資金需要が発生した際に絶大な効果を発揮します。

メリット3：財務体質を改善するオフバランス効果

ファクタリングは借金（負債）ではなく、資産（売掛金）の売却です。
そのため、貸借対照表（B/S）をスリム化できる「オフバランス効果」が期待できます。

【オフバランス効果のイメージ】
・借入をすると…「資産（現金）」と「負債（借入金）」が両方増える。
・ファクタリングを利用すると…「資産（売掛金）」が「資産（現金）」に変わるだけ。負債は増えない。

負債を増やすことなく現金を確保できるため、自己資本比率などの財務指標が改善します。
これにより、結果として金融機関からの信用格付けが向上し、将来的な融資審査で有利に働く可能性も秘めているのです。

手形取引からファクタリングへ｜スムーズな移行を実現する3ステップ戦略

では、実際に手形中心の取引からファクタリング活用へと移行するには、どうすれば良いのでしょうか。
以下の3ステップで進めることをお勧めします。

ステップ1：現状の取引と資金繰りの可視化

まずは足元を固めることが重要です。
自社の現状を正確に把握しましょう。

• どの取引先と、どのような条件（金額、支払サイト）で手形取引を行っているか一覧化する。
• 月々の資金繰り表を作成し、いつ、いくらの資金が不足する可能性があるかを予測する。
• 手形割引に頼っている場合、その依存度を数値で把握する。

この作業を通じて、どの取引から優先的に交渉すべきか、いつまでに代替手段を確保すべきか、という具体的な計画が見えてきます。

ステップ2：取引先への事前交渉と合意形成

次に、手形取引を行っている主要な取引先に対し、支払方法の変更を打診します。
これは非常にデリケートな交渉ですので、丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

交渉のポイント
「政府の方針で2026年度末に手形が使えなくなるため、今のうちから現金振込への切り替えをお願いできませんでしょうか」というように、自社の都合ではなく、社会全体の動きを理由に切り出すのが有効です。
ファクタリングの利用を前提とする場合でも、まずは現金振込への変更を打診し、支払サイトの短縮などを交渉するのが基本線となります。

一方的に要求するのではなく、相手の事情もヒアリングしながら、お互いの妥協点を探る姿勢が成功の鍵を握ります。

ステップ3：信頼できるファクタリング会社の選定ポイント

移行の準備と並行して、いざという時に頼れるファクタリング会社を見つけておくことが賢明です。
金融庁も注意喚起している通り、残念ながら悪質な業者も存在します。以下の点を必ず確認しましょう。

• 手数料体系の透明性
  →手数料の内訳（基本手数料、登記費用など）が明確に提示されているか。
• 契約内容の明確さ
  →契約書に「償還請求権なし（ノンリコース）」と明記されているか。
• 会社の信頼性
  →会社の所在地、代表者名、固定電話番号が公開されているか。長年の実績や業界団体への加入状況も参考になります。
• 担当者の対応
  →あなたの状況を親身にヒアリングし、リスクも含めて丁寧に説明してくれるか。

複数の会社から見積もりを取り、条件と信頼性を比較検討することが、健全なパートナー選びに繋がります。

よくある質問（FAQ）

Q1: 2026年度末に、すべての手形が法律で禁止されるのですか？

A1: いいえ、法律で完全に禁止されるわけではありません。
しかし、政府と金融界が利用廃止に向けた自主行動計画を進めており、手形交換所も機能停止を予定しているため、「実質的に利用できなくなる」というのが正確な理解です。
インフラがなくなる以上、利用の継続は極めて困難になるとお考えください。

Q2: 取引先が「でんさい」にしか応じてくれない場合はどうすれば良いですか？

A2: 取引先が「でんさい」を導入している場合、まずはそれに合わせて自社も対応を検討するのが基本です。
その上で、でんさいで受け取った債権を現金化する「でんさい割引」や「でんさいファクタリング」といった選択肢もあります。
手数料や償還請求権の有無といった条件を比較検討し、自社のニーズに合った方法を選んでみてはいかがでしょうか。

Q3: ファクタリングの手数料は、手形割引と比べて高いのでしょうか？

A3: 一概には言えませんが、貸し倒れリスクをファクタリング会社が負担するため、そのリスクプレミアムとして手形割引より手数料率が高くなる傾向はあります。
ただし、これは「安心料」や「保証料」としての側面も持ち合わせています。
資金化のスピード、柔軟性、リスク回避といったメリットを総合的に勘案し、コストパフォーマンスを判断することが重要です。

Q4: ファクタリングを利用すると、取引先に知られて信用不安に繋がりませんか？

A4: お客様とファクタリング会社の2社間だけで契約が完結する「2社間ファクタリング」であれば、取引先に通知することなく資金調達が可能です。
多くの企業がこの方法を利用しています。
ただし、ファクタリング会社のリスクが高まる分、手数料は取引先の承諾を得る「3社間ファクタリング」より高くなるのが一般的です。

Q5: 建設業を営んでいますが、特に注意すべき点はありますか？

A5: 建設業は多重下請構造で支払サイトが長期化しやすいため、手形廃止の影響を特に受けやすい業界と言えます。
実際に、国土交通省も支払条件の改善を強く要請しています。
できるだけ早期から元請けや上位の取引先と支払条件の見直し交渉を進めるとともに、不測の事態に備えて資金繰り計画をより緻密に立て直すことが不可欠と考えられます。

まとめ

2026年度末の手形廃止は、すべての中小企業にとって資金調達のあり方を見直す大きな転換点です。
長年の慣習であった手形取引からの脱却は、短期的に見れば対応コストや交渉の手間が掛かるかもしれません。

しかし、これは旧来のリスクや非効率から解放され、より迅速で健全なキャッシュフロー経営へと移行する絶好の機会と捉えることもできるでしょう。

本記事では、代替手段としての「でんさい」と「ファクタリング」を比較し、特にファクタリングを活用した移行戦略を解説しました。
重要なのは、それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、自社の事業モデルや取引先の状況に最適な手段を主体的に選択することです。

この変革の波を乗りこなし、より強固な経営基盤を築くための一歩を、今から踏み出してみてはいかがでしょうか。