ファクタリング賛否両論の山崎です。銀行員時代から中小企業の融資相談を受けてきましたが、ここ数年ほど「売上はあるのに、賃上げ原資が重い」という声を聞く局面は多くありません。
今回は、日本経済新聞が報じた連合の2026年春季生活闘争第2回回答集計に関するニュースを取り上げます。連合の一次情報である2026春季生活闘争 第2回回答集計結果では、平均賃金方式で回答を引き出した1,506組合の加重平均が17,137円、5.12%。300人未満の中小組合も14,048円、5.03%と、前年同時期を上回りました。

ニュースの概要・背景
連合2次集計で賃上げ率は5%台を維持
連合が2026年3月27日に公表した第2回回答集計では、全体の賃上げ率が5.12%となりました。前年同時期の5.40%からは0.28ポイント低下したものの、依然として5%台です。300人未満の中小組合は5.03%で、前年同時期の4.92%を0.11ポイント上回りました。
数字だけ見ると、中小企業にも賃上げの流れがしっかり波及しているように見えます。実際、同じ連合資料に掲載された2013年以降の第2回回答集計の推移では、中小賃上げ率は2023年3.39%、2024年4.50%、2025年4.92%、2026年5.03%と上昇基調です。
ただし、ここで見たいのは「平均値の高さ」だけではありません。中小企業にとっては、賃上げを継続できるだけの利益、価格転嫁、運転資金がそろっているかが本題になります。
中小企業にとって賃上げは人材防衛策
人手不足が続くなか、賃上げは単なる従業員還元ではなく、人材流出を防ぐための防衛策になっています。帝国データバンクの2026年度賃金動向調査でも、賃金改善を見込む企業の理由として「労働力の定着・確保」が74.3%で最も高くなっています。
採用の現場では、給与水準の差がそのまま応募数や定着率に響きます。特に製造業、建設業、物流、介護、飲食など、人手不足が慢性化している業種では「上げない選択」が難しくなっています。
一方で、中小企業の賃上げは大企業ほど余力を伴っていないケースもあります。売上増ではなく、利益を削って賃上げしている企業も少なくない。この点は見逃せないところです。
具体的な内容・データ・影響
今回の主な数字を整理する
連合の第2回回答集計を、資金繰りの視点で見ると次のようになります。出典は連合「2026春季生活闘争 第2回回答集計結果」です。
| 項目 | 2026年 第2回集計 | 前年同時期比 |
|---|---|---|
| 全体の賃上げ額・率 | 17,137円・5.12% | 349円減・0.28ポイント減 |
| 300人未満の中小組合 | 14,048円・5.03% | 760円増・0.11ポイント増 |
| 賃上げ分が明確な組合全体 | 12,177円・3.62% | 135円減・0.17ポイント減 |
| 賃上げ分が明確な中小組合 | 10,532円・3.71% | 598円増・0.22ポイント増 |
中小組合では、定昇相当込みの賃上げ率だけでなく、賃上げ分が明確な集計でも3.71%と全体の3.62%を上回っています。
この数字は、労働者側から見れば前向きな材料です。物価上昇が続くなかで、給与が上がらなければ生活防衛が難しいためです。
経営者側から見ると、毎月固定的に出ていく人件費が増えるという意味を持ちます。賞与や一時金と違い、月例賃金の上昇は一度実施すると翌月以降も続く固定費です。
人件費増は利益と資金繰りを同時に圧迫する
人件費が5%上がると、損益計算書上の利益だけでなく、資金繰り表にも影響します。給与は原則として毎月支払う必要があり、社会保険料の事業主負担も連動して増えます。
山崎正典賃上げそのものは必要です。ただ、売上が増えていても利益が残らない、入金より先に給与や外注費が出ていく、という会社は確実に増えています。
厚生年金保険料については、日本年金機構が「事業主と被保険者とが半分ずつ負担する」と説明しています。健康保険料や雇用保険料なども含めた労使折半の考え方は、厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトでも確認できます。
たとえば月間給与総額が1,000万円の会社で5%の賃上げを行えば、単純計算で月50万円、年間600万円の追加負担です。社会保険料の増加分を含めれば、実際の資金流出はさらに大きくなります。
中小企業で起きやすい影響は、次の3つです。
- 月末の給与支払いと仕入代金支払いが重なり、手元資金が薄くなる
- 利益率が低い案件ほど、賃上げ後に採算割れしやすくなる
- 借入返済、税金、社会保険料の支払い余力が落ちる
銀行員時代、黒字でも資金繰りに詰まる会社を何社も見てきました。利益が出ていても、入金サイトが長く、支払いが先行すれば現金は足りなくなります。賃上げ局面では、このズレが大きく出ます。
中小企業・個人事業主が知っておくべきポイント
価格転嫁なしの賃上げは長続きしない
中小企業庁は、エネルギー価格、原材料費、労務費の上昇を背景に、2021年9月から毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と設定しています。中小企業庁の公式ページでは、価格交渉・価格転嫁を促す広報や業界団体への要請、フォローアップ調査、下請Gメンによるヒアリング、状況が芳しくない発注者への指導・助言を行うと説明されています。
賃上げの原資は、最終的には利益から出ます。借入やファクタリングで一時的に資金をつなぐ場面はありますが、利益が出ない構造のまま賃金だけ上げると、いずれ資金繰りが苦しくなります。



資金調達は大切ですが、利益が出ない取引を続けたまま資金だけを足しても、根本的な改善にはなりません。まずは粗利が残る取引かどうかを見直すべきです。
取引先との価格交渉では、感覚的な「厳しいです」では弱い。次のように、数字で説明する準備が必要です。
- 労務費、材料費、外注費、物流費の上昇率を分けて整理する
- 商品別、案件別に粗利率の変化を出す
- 賃上げによる月次固定費の増加額を示す
- 値上げできない場合の納期、仕様、数量の見直し案を用意する
価格交渉は、単なる値上げ依頼ではありません。取引を続けるための条件調整です。中小企業ほど、この考え方に切り替える必要があります。
資金繰り表は「賃上げ後」で作り直す
賃上げを決めた後に、資金繰り表を従来のまま使っている会社があります。これは危険です。
最低でも、向こう12カ月の資金繰り表に次の項目を反映させてください。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 給与支払額 | 昇給後の月額で再計算する |
| 社会保険料 | 事業主負担の増加を織り込む |
| 賞与 | 月例賃金とのバランスを確認する |
| 借入返済 | 元金返済と利息負担を分けて見る |
| 売掛金入金 | 入金遅延やサイト長期化を保守的に見る |
帝国データバンクの2026年度賃金動向調査では、2026年度の総人件費の増加を見込む企業が73.9%とされ、総人件費は平均4.51%増、中小企業の従業員給与は平均4.53%増と試算されています。
これは、賃上げが一部企業だけの話ではなくなっていることを示します。人件費増を前提にした資金繰り管理へ切り替える時期です。
ファクタリング賛否両論としての見解
ファクタリングは「賃上げ原資」ではなく「入金ズレ対策」
ファクタリング会社にいた頃、賃金や外注費の支払い前に、売掛金の入金待ちで資金が詰まる相談をよく受けました。特に建設業、運送業、広告制作、製造業の下請けでは、売上計上から入金までの期間が長く、先に人件費や外注費が出ていきます。
こうした場面でファクタリングが役立つことはあります。売掛債権を早期に資金化し、給与や仕入れ、外注費の支払いに充てる。借入枠が限られる中小企業にとって、選択肢の一つになるのは事実です。
ただし、私はファクタリングを「賃上げ原資」として使う考え方には慎重です。ファクタリングは、あくまで入金タイミングを早める手段です。利益そのものを増やすわけではありません。



ファクタリングは悪い手段ではありません。ただし、賃上げ分を補うために繰り返し使うと、手数料負担でかえって資金繰りが苦しくなることがあります。
賃上げ分を価格に反映できず、粗利も改善しないままファクタリングを繰り返すと、手数料負担が積み重なります。短期の資金ショートは防げても、収益構造は悪化する可能性があります。
中小企業は「払える賃上げ」を設計する段階へ
今回の5.03%という中小賃上げ率は、働く人にとって歓迎すべき数字です。中小企業が人材を守るために踏み込んでいることも伝わります。
一方で、経営者側には厳しい現実があります。売上が伸びていない、価格転嫁が進まない、入金サイトが長い。この状態で人件費だけが上がれば、資金繰りは確実に重くなります。
私が銀行員時代から感じているのは、資金繰りに強い会社ほど「賃上げするかどうか」ではなく、「どの利益から、どのタイミングで、どれだけ払うか」を先に決めていることです。
たとえば、次のような順番です。
- 商品別、取引先別の採算を見直す
- 値上げできる取引と撤退すべき取引を分ける
- 固定費化する昇給と、業績連動の賞与を組み合わせる
- 売掛金の回収条件を短縮する交渉を行う
- 足元の資金不足には、融資やファクタリングを使い分ける
賃上げは避けて通れないテーマです。ただし、勢いだけで決めるものでもありません。従業員を守るためにも、会社を守るためにも、利益と現金の両方から設計する必要があります。
まとめ
連合の2026年春闘第2回回答集計では、全体の賃上げ率が5.12%、中小組合も5.03%と高水準を維持しました。中小企業にも賃上げの流れが広がっている一方、人件費増は利益と資金繰りを同時に圧迫します。
価格転嫁、採算管理、資金繰り表の見直しは待ったなしです。ファクタリングは入金ズレ対策として有効な場面がありますが、利益不足を補う万能策ではありません。賃上げを続けるために、まずは「払える構造」を作ることから考えてみてはいかがでしょう。






